偶発症の疾患別対処法

偶発症の原因となっている診断を推定し緊急対処を行う上で、患者様の主な症状を確認することが重要です。
主な症状としては、以下5項目に分類してご紹介をいたします。

突然意識障害を呈した場合、

  1. 意識障害を呈したら、まず119番通報をしてください。
  2. 反応の有無を確認し、反応・呼吸がない場合は心肺蘇生を行ってください。
  3. 反応がある場合でも、呼吸状態の確認をし、呼吸が弱い場合には気道の確保と補助換気を開始してください。
  4. その後、既往症やバイタルサインの確認をしてください。

症状として、

  1. 突然の顔・手足のしびれが、右側あるいは片方に偏って起こった。
  2. 突然、言語障害、或いは舌がもつれた状態になった。
  3. 突然、両目または片目が見えづらくなった。
  4. 突然のめまい、歩行障害、手足の脱力感が生じた。
  5. 今まで経験したことのないような激しい頭痛に襲われた。
速やかに119番通報を行ってください。

高血圧症の既往歴のある患者様が、歯科治療の不安や痛みなどのストレス、または血管収縮薬などが誘引となり発症。
症状として、
頭痛、胸部不快感、動悸、吐き気、嘔吐、意識障害
などがあります。

対処方法
  1. 最高血圧200㎜Hg以上、最低血圧140㎜Hg以上の場合、降圧剤の緊急薬剤番号⑦のニフェジピンを2錠経口投与する。
    舌下投与は過度な血圧低下や反射性頻脈を引き起こす場合があるため、経口にて投与する。
  2. その後119番通報し、医療機関に搬送する。

糖尿病の患者様が、摂食不良や糖尿病治療薬の誤用などで低血糖症を発症することがあります。

  1. 血糖値が70mg/dL以下まで低下すると、吐き気、発汗、動悸、手指の震え、眠気などが現れます。
  2. 50mg/dL以下の場合には、痙攣を起こしたり、意識を失ったり、深刻な症状が現れます。
対処方法
  1. 意識がある場合には、緊急薬剤番号⑧番のブドウ糖3g粒を3粒ないしは4粒を経口にて摂取してください。
  2. 意識がない場合、窒息・誤嚥に注意しながら、歯茎にブドウ糖液を塗ってください。
  3. 糖尿病患者様の意識状態急変には低血糖の他、高血糖症の可能性もあります。糖尿病患者様の治療の際には、血糖測定器の準備をお勧めします。

胸痛で想定される疾患は、急性冠症候群、狭心症、急性大動脈解離、気胸などです。
患者様が突然の胸の痛みや不快感を訴えられた場合、狭心症や高血圧症の既往の有無を確認します。

対処方法
  1. すぐに119番通報を行います。
  2. 緊急薬剤番号⑥番のニトロールスプレーを1噴霧口腔内に投与します。
  3. 5分経過しても症状が改善しない場合は、もう1噴霧行います。

呼吸困難を訴えられた場合、アナフィラキシー、気管支喘息発作、過換気症候群が疑われます。
アレルギーや気管支喘息の既往を確認します。同時に動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定してください。

  1. SpO2が94%以下の場合には、アナフィラキシーや気管支喘息発作が疑われます。119番通報を行ってください。
  2. SpO2が98%以上の場合、過換気症候群の可能性を疑います。

アナフィラキシーは、麻酔薬などの誘引物質を投与して数分以内に発症します。
症状としては、

  1. 初期症状として、手足のしびれ、悪心、めまい、胸の不快感、便意・尿意
  2. 皮膚症状として、皮膚のかゆみ、皮膚紅潮、蕁麻疹、血管浮腫
  3. 重症状として、顔面蒼白、呼吸困難、喘鳴、失禁、意識消失
    バイタルサインでは、血圧の低下、頻脈、SpO2の低下がみられます。
対処方法
  1. 水平位にして、膝下を体より30㎝ほど上げてください。呼吸状態が悪い場合には、酸素投与を行ってください。
  2. できるだけ速やかに119番通報。
  3. 緊急薬剤番号②番のアドレナリンを成人0.3mL、小児0.15mLを大腿中央部前側部に投与してください。

気管支喘息の既往のある患者様が、歯科治療のストレスにより発症することがあります。
症状として、

  1. 咳、喘鳴、呼吸困難、起座呼吸
  2. 重症になると、チアノーゼ状態、意識障害
  3. 特にSpO2が90%以下の場合は、重篤な状態になる恐れがあります。
対処方法
  1. 座位にして酸素投与。
  2. 緊急薬剤番号②番のアドレナリンを成人0.3mL、小児0.15mLを大腿中央部前側部に投与。
  3. 緊急薬剤番号③番デキサート注を1本(1アンプル)筋肉内注射で投与してください。
  4. 会話ができなくなるなど、意識レベルが低下した場合、または横になると呼吸困難になる場合は、速やかに119番通報。

歯科治療に対する不安や恐怖心による心因性反応。
呼吸困難を訴え、呼吸回数が増える頻呼吸が特徴です。
基本として、SpO2は低下しません。
症状として、
呼吸困難、呼吸数が30~50回/分以上の頻呼吸、めまいや動悸、筋肉のしびれ、痙攣、指先の反り返り

対処方法
  1. 「大丈夫ですよ」と声がけなどをしながら、患者様の不安を取り除くよう努めてください。
  2. 息ごらえや呼吸をゆっく行うよう声がけし、呼吸を落ち着かせることを優先してください。
  3. 改善しない場合やSpO2が低下する場合は119番通報。

てんかんの既往のある患者様が、休薬中や疲労状態である時に発症。
ただし、既往歴のない患者様の場合、脳卒中の初発症状の可能性もあり注意が必要。

対処方法
  1. 気道を確保。
  2. 呼吸抑制に注意しながら、緊急薬剤番号④番のホリゾン注を1本(1アンプル)筋肉内注射で投与。
  3. 5分以上経過しても改善しない場合、または断続的に発作が頻発す場合には、ただちに119番通報。

歯科治療に対する不安や痛みなどのストレスが要因で副交感神経が緊張し発症。
症状として、意識消失、顔面蒼白、発汗、嘔吐
バイタルサインとしては、最高血圧70㎜Hg以下の血圧低下状態、脈拍が50回/分以下の徐脈が特徴。

対処方法
  1. 体を水平位にして、膝下を体より30㎝ほど上げてください。
  2. 意識消失や呼吸が弱くなった時には、名前を読んだり、肩をたたくなど軽い刺激を与えてください。
  3. 脈拍数が50/分以下になるような徐脈に対しては、緊急薬剤番号①番のアトロピンを1本(1アンプル)投与してください。
  4. 最高血圧70㎜Hg以下の血圧低下が継続する場合、緊急薬剤番号⑤番エホチールを成人の場合1/2アンプル投与してください。
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